昔々、 侍の力が強うなっち、 天子様ん勢いが悪うなった頃んことじゃった。
　京都ん御所じ育てられた藤原鶴清麿（ふじわらのつるきよまろ）ちゅう可愛い若君が、
　難を逃れ、「八瀬（やせ）」ちゅう乳母に連れられち、 豊後ん大友家を頼っち来た。
　そこで人目にふれんじ、静かに住むが良かろうちゅうんで、黒野（現在の古野）
　ん御所之森に隠遁することになったんじゃ。　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　'
　乳母ん八瀬は、 京都ん大原八瀬の出じゃと言われちょるが、 事情があっち
　名を伏せ、 ただ八瀬とだけ呼ぶことにしちょったそうな。 　　　　　　　　　　　　　　'
　八瀬は鶴清麿をそりゃあ大事に育てたんじゃ。それに大変信仰深けえ人で、
　御所之森から三町ほど離れた所に、 妙蓮寺ちゅう寺があっち、 そこに本尊とし　
　て祀られちょる地蔵菩薩様に、毎日毎日鶴清麿の無事成長を祈りよったんじゃ。

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