笑うキツネ

 陣屋の村を朴木方面に登って行くと茅場(かやば)に出る。昔ここは、'
暗いさびしいところじゃった。                   ''
 茅場と埴坪(はねつぼ)との分かれ道を、夜遅く向原から帰りよった猟'
師が、急に「ワッハッハ、ワッハッハ」と大声で笑う声を聞いたんじゃ。'
何せ夜中のことじゃけん、たまがっちしもうた。           '
 「今頃誰じゃろうかのう、若い者(もん)でん騒ぎよるんじゃろう」と'
近づいていくと、その声はすこし遠くなり、又近づいていくと又少し遠く'
なっていく。                           '
  それは、人が5,6人で
 笑いあうような「ワッハッ
 ハ、ワッハッハ」と
'いう声
 じゃった。 
'
  気味が悪いんで、なんと
 か近づいて声の主を確かめ
 ようとしたが、近づくと遠
 ざかるんで、確かめること
 がでけん。   
'
  猟師が追うのをやめて家
 に帰ろうとすると、今度は
 その笑い声が追いか
'けて来
 て、すぐ近くでバカにした
 ように「ウワハッハ」「ウ
 ワハッハ」と笑んじゃ。
  まったく、癪にさわっち
 ならん。猟師は、笑い声を
 本気で追いかけることにし
 たんじゃ。
じゃけど、追いかければ逃げるように遠ざかっていく笑い声じゃ。とうと
う山の中にはいってしもうたが、猟師は意地になって追いかけた。   
'
藪の中を走ったので顔や手は傷だらけになり、追いかけよる途中で穴にも
落ちて、足を怪我したが構わず追いかけた。             
'
 とうとう疲れて一休みというときに、また「ワッハッハ」とすぐ近くで'
笑うので、怒った猟師は持っていた鉄砲をかまえ、闇の中にどーんと打ち'
込んだ。それでさすがに笑い声はなくなった。            '
 次の朝、猟師がその場所に戻ってみると、大きなキツネが道に出て死ん'
でいるのが見つかった。猟師は、夕べのことを思い出し、笑い声はおまえ'
じゃったんかと言った。顔見知りのキツネじゃったそうな。      '
 それからしばらくしてこの猟師は、原因も分からん高い熱を何日も何日'
も出して、とうとう死んでしもうたというんじゃ。なんでん、あんキツネ'
んタタリじゃとみんなが噂したそうじゃ。              '
 こういうことになったのは、キツネが狙っていたおいしそうな若いウサ'
ギを、猟師がとってしまったことから、キツネが猟師にこのようないたず'
らをしたそうじゃ。                     戻る