なまずに乗ってきた馬見塚(まみづか)氏

 肥後の国(熊本)の山鹿の城主に、馬見塚左馬介市正という殿様がいた。'
 城は平地にあって、周りを大けな堀じ囲んじょった。そんため、敵から '
攻められてん、なかなか落つるようなもんじゃなかった。        '
 ある年、隣ん国と戦争が始まったんじゃ。どう攻めてん馬見塚氏の城が '
落ちんので、隣ん国の兵隊達は、堀の土手を切ることを思いついたんじゃ。
 夜、こっそりと土手を切りはじめた。                
'
 ところで、この堀にはたくさんのなまずが住んでおって、土手を切られ '
ていることにいち早く気づいたのは、堀のなまずたちじゃった。     '
 「おい、何やら音がせんか?」                   '
 「そうじゃのう。なんか水も減っちょるごたんのう」         '
 「敵が堀を切りよんのじゃないか?」                '
 「そうなら大変なこっちゃ。早よう殿様に知らせにゃ!」と、堀のなま '
ずの主は、大急ぎで殿様ん枕もとへとかけつけたんじゃ。        '
 「殿様、起きてください。一大事じゃ!」              '
 「なにごとじゃ。そちは何者じゃ?」                '
 「わたくしは、城の堀に住むなまずでございます。今、敵の兵隊達が堀 '
の土手を切って、城に攻め込もうとしちょります。はようここを逃げてく '
ださい。さあ、今すぐ私の背中にのって!」              '
 「なんと!そのようなことがあるか!」               '
 「お急ぎください!今なら無事この城から逃れられましょう。どうか私 '
を信じてください。」                        '
 「そうか、お前もこの馬見塚城の堀の主じゃ。うそはあるまい。たのむ」'
 「さあ、お早く!」と、馬見塚の殿様をその背中に乗せ、急いで泳ぎ、 '
難をのがれたんじゃ。                        '
 次の日、堀はすっかり干あがっち、馬見塚城は攻め落とされちしもうた。'
その堀んあとには、たくさんのなまずが傷つき死んじょったんじゃ。   '
 自分達を助けちくれたなまずをあわれに思った馬見塚の兵隊たちは、死 '
んだなまずたちを堀から引き上げ、丘の上になまず塚を作っち、大切にほ '
うむったんじゃ。                          '
 なまずの主は、殿様を挾間の鬼崎につれてきた。多くの武士もなまずに '
乗って助かり、鬼崎へとたどりついた。                '
 その後、馬見塚の殿様はこの鬼崎の地で暮すこととなったんじゃが、馬 '
見塚氏は、このなまずの恩を忘るることはなかった。          '
 そんため、今でん鬼崎んしは、なまずを食べん人が多いんじゃと。   '

なまずに乗った殿様
                             戻る